[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
暗い宇宙空間。 吸い込まれていく、あいつを乗せた『棺』。 ちょうど真横に位置する私からは、 最期の表情を見ることはできなかったけど。 でも、それで、よかったのかもしれない。 罪と罰 ガンドールのエンジン音だけが響く、格納庫。 傷だらけの獣戦機たちは応急処置を施されて、 今は、静かに眠る。 クーガーの横にあるはずの機体はなく、 その場所は、ぽっかりと空いたまま。 外は、まだ宇宙。 いろいろなものを、残してきた場所。 まだここにいる。 でも、もう、間に合わない。何かが。 そんな、焦燥感のような思いに苛まれる。 あの時。 どうしてあんな行動をとったのか、今となっては自分でもわからない。 結果的には、敵に打ち勝つことができた。でも、私の選択は、 亮を、雅人を、そして、忍を。 裏切り、傷つけること。容易に想像できたのに。 瞼が、熱い。 不規則になる息も。 頭も体も焼き尽くすようで、 私は思わず、唇をかみしめた。 「探したぞ、沙羅」 気配に続いてかけられた声。 気づいてはいたけど、今は振り向けない。 振り向いて、その目に見つめられたら最後。 きっと私は、また、甘えてしまう。 自分のしたことを、棚にあげて。 「葉月さんが呼んでるぜ。お前も早くメディカルチェック受けろって」 「…」 「聞いてんのかよ」 返事のない私に痺れを切らしたのか、ぐい、と腕を取られる。 その拍子、合わせるつもりのなかった目が合って。 「…っ」 すぐにそらしたけど、正直に跳ねる、身勝手な心臓。 「…沙羅…お前…」 鳶色の瞳は、私の顔を見て、少し翳る。 とっさのことに、涙をぬぐう暇もなかったから。 いや、例えぬぐっても、赤く腫れた瞼は、隠せるはずもない。 「すぐ…行く、から…」 うつむいて、精一杯の言葉を紡いで、 その場を立ち去ろうと踵を返した。 その瞬間、 「!!」 後ろから、抱きすくめられて。 「あ…!」 驚いて捩った体、 向き直らされて、そのまま唇を奪われる。 「…んっ…ふ…」 壁に押し付けられる背中。 捕えられた手首も、痛いのに。 触れ合った部分から伝わるぬくもりは、 間違いなく私の頭を安堵で満たしていく。 「沙羅…」 息継ぎの合間、 名前を呼ぶ吐息のような声。 侵される脳。 身を任してしまいたい。 でも、でも…。 「…だ…め…っ…」 拒否の言葉は、自分に言い聞かせるために。 感情が呑まれる寸前、顔をそらした。 今度こそは、素直になろうと思った。 忍が、戻ってきてくれたとき。 気持ちを確かめ合うきっかけは、何度もあったけど、 そのたびに、臆病になってばかりで。 結局は、何も伝えられないままに、 離れ離れになってしまった。 だから。今度こそ。 そう、思ったのに…。 あの星で。 あいつに会った。 殺したはずの、憎んだはずの、あいつに。 そしたら、まるで火がついたみたいに、 忘れかけてた何かが、走り始めて。 『こいつを、ライガーに乗せるよ!』 あの状況下、 唯一の、最善の策だったと、言えるかもしれない。 でもそこに、シャピロへのなんらかの感情が、 なかったといえば、ウソになる。 もちろんそれは、 愛し合っていた頃のそれとは、別物だったけれども。 私の一言に、忍は一瞬切なげに、視線を落とした。 今度こそは、素直になろうと思った。 でも。 きっともう、私にそんな権利は。 2009.10.24