Two sides of the coin
〜ある晴れた日の朝〜










Front-side



忙しくしてれば、その間は。考えなくて済む。
ふとした瞬間浮かんでくる顔、振り払わなくて済む。

だけど、こんな予定もない休日の朝は。
ごまかしも利かない。気も紛れない。

絶好の洗濯日和も、どこか上の空。
意識の端、割り込んでくる、少し伸びた黒髪。煙草の匂い。


この前会ったのは、2週間ほど前。
映画を見て、新しくできたカフェで食事をして。

次の約束は、しなかった。
別に、休みのたびに会わなきゃいけないわけじゃないし。
会いたい…わけじゃない。

それなのに。気が付けば目が行く電話。
ふいの呼び出し、期待している自分に気づく。

あいつは今頃、何してるんだろう。
いつの間にか把握してる、あいつの勤務シフト。今日は確か、空欄だった。

たまの朝寝坊、してるかな。それともどこかに出かけてるかな。
そんなこと、気になってばかりなら。いっそのこと。

思い切って手にする受話器。でも。番号を押す勇気は出ないまま。
ただしばらくの間、無機質な電子音に耳を傾けるだけで。
ため息混じり、静かに戻す。

あいつの押しに負けた、つもりでいたのに。
いつの間にか、立場は同じ。むしろ、逆転しかかってる可能性すら。

否定したくてもできない事実に、混乱する頭。宥めるように立ち上がる。


もやもやしてるのは、性に合わない。
時間があるから余計なこと、考えてしまうわけで。
潔く、出かけることにする。

目的は、特にないけど。
とりあえず、駅前をぶらぶらして。
そういえば、こないだあいつと行ったカフェ、紅茶が美味しかったから。
もう一度、行ってみようかな。

私は手早く身支度を整えて、外に飛び出した。




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