戦場は、もちろん。全てが自己責任。その上で、連携とか。作戦に従う。…従わない時も、あるけど。
        その結果も、当然のごとく。自分にはね返る。それで、怒られるのなんかもう。慣れっこになって。

     「…」

     それが、他人に…完全な、とばっちりで。被害を加えた、となったら。やっぱり、当然。良心が痛む。
     もちろん、獣戦機の出撃自体が。建物を壊したり…遺跡を破壊して、怒られたことも…は、日常で。
     いいことじゃないけど。悪い意味で、慣れてしまった。鈍くなったというか、強くなった。…けれど。

     「…にしても、暑いな」
     「そーだね、忍は二重包装だしね」
     「そうそうこうやってくるっと…って、俺はお中元か!」
     「…、…」
     「ねぇ雅人、オチュウゲンって何?」

     …こうやって、目の前に。当の被害者が、いることなんか。めったにない。むしろ、あって欲しくない。

     「…」
 
     真昼の、休憩室。運悪く…地球のためには、運よくなのかも…敵襲の、お呼びも。かかってくれない。
     ぎらつく陽射しを、避けて。ソファにより集う。若干むさ苦しい。そのまっただ中。こうしている。

     ぱたぱた、と。手で仰ぐ仕草。忍。動かせるのは、右手だけ。左肩から、下がる。真っ白な、三角巾。
 
     つい、この間まで。入院して…というか、させられていた。戻って来た基地は。存外、暑かったらしい。
     原因は…あたしの暴走。深い絶望感は、花粉の効果。幻覚作用も、相まって。見事に引っかかった。
     止めようとして、撃たれて。この程度で、済んだのが。奇跡だと思う。夏なのに、背筋が。寒くなる。

     本来ならば、厳罰が下るはず。けれど。被害者のはずの、忍が。あたしをかばったと。伝え聞く。

     「…」

     真っ白な、ヘンリーネック。片手で、脱ぎ着がしやすいよう。少し開いたボタン。ちらり、と。鎖骨。
     ジーンズの長い足。まだまだ、出撃許可は。出ていない。結構、無理やりに…退院して来た、とか。

     合体の脅威が、効いているのか。敵襲は、一時的に止んで。また最近激化した。気になって当然。

     「突っ込むと余計暑くなるよ〜」

     茶色の戦闘服姿。雅人が、へろりと笑う。軽い口調。少し伸びた前髪。切る暇もないほど、忙しい。

     「誰がさせたんだ、誰が」
     「いったーい!!」

     げし、と。蹴飛ばす音。扇ぎながら。雅人を小突くには。手が足りないから。脚を、有効活用してる。

     「あーもー、ほんと酷い扱い…サドだね、サド」
     「…自業自得だ」
     「亮も酷いっ、もう実家へ帰らせていただきます!」

     けたたましい悲鳴と、抗議。ぼそりと低い声。それでもどこか、華やぐ。忍には、天性の徳がある。
     ローラも雅人も、…もしかして、亮も。待ってたのか。入院してる間、まるで。灯が消えたようだった。
     戻って来たら、くっついて。離れようとしない。今でもこうして。暑い休憩室の中。寄り集っている。
   
     本来なら、あたしは。ここにいては、いけない立場。でも、そそくさと去るのも。若干気が引ける。
     怒ってるわけじゃ、ないけど。かえって、居心地が悪いとか。決して、いってはいけない。ただ耐える。

     ひざの上の、ベッキーも。舌を出して。はぁはぁ、と。息遣い。撫でながら、ローラがあたしを見る。

     「ねぇお姉ちゃん、ジゴウジトクって何?」
     「それは、…」

     あたしのこと…だとか。いいかけて。スピーカーを、ふと見上げる。相変らず、今日は。平和な日。



                    「もっと。」【指先という心臓】                      



     それにしても、暑い。…山の中だから…むしろ、山奥だから…涼しい、というのは。幻想なんだろう。
     大きな窓は、採光重視。じりじり、と。陽射しが強い。ソファに当たらないよう、ブラインドを閉める。
     抜けるような、青空。一瞬、ちらりと忍が見る。…飛びたくて、たまらない。まぶしげに細める、瞳。
  
     唯一の、飛行可能な機体。必要不可欠…合体にも、作戦にも…で。それ以上に、周りを。明るくする。
     しばらくの、出撃は。みんなどこか、寂しくて。無口だった。雅人と違う意味で、ムードメーカー。

     ソファの席は、いつも。向かい合わせ。今日に限って、よく見えて。…何度も、目が合ってしまう。

     「…」

     たぶん、文句がいいたいのだろう。忍には、その資格というか…権利がある。痛い目に遭ってるから。

     「ねぇ〜何かアイスとか食べたくない〜?」
     「ローラ、喉渇いちゃった」
     「ちょっと待って…見て来てあげる」

     さすがにアイスは、常備してない。けど、何か冷たいものは。冷蔵庫に、何本か。入っていたはず。
     まるで、夏休みの子供と母親。そう思いながら。立ち上がって。共用の冷蔵庫。そっと開ける。

     そそくさと、離れる口実。ジュースはおそらく…それこそ、お中元。ローラのための、横流し品。
     …昔ながらの、水で割る乳酸飲料。甘酸っぱい味。封すら切っていない。グラスの中に、注ぐ。
     水がおいしいからか、氷もおいしい。これは、山中の基地の恩恵。ちらりと。振り返る。人数確認。

     雅人とローラは、確定として。忍と亮。こんな…というのは失礼だけど…甘いのは。飲むだろうか。

     「亮も欲しいって」
     「…」
     「俺は…今はいらねぇな」
     「え、おいしいのに」

     通訳のように、雅人。亮は無言を貫いて。こくん、と。小さくうなずく。話すのは面倒…らしい。
     口々に、いいたいことをいう。にぎやかな空気。…背中で感じるのは、悪くない。コップを出して。
  
     無理やり、加えられるのは。苦手だから。でもみんなももう、わかってて。放っておいてくれる。

     忍の分だけ、麦茶。昨日沸かしたもの。やかんで作ると、何となく。部活の、マネージャーの気分。
     白いグラスが、4つ。茶色がひとつ。トレイに乗せて、運ぶ。小さなテーブルの上。とん、と置いて。
     あとは、自由に…ストローは色違いで、目印になる…好きなのを、選ぶだけ。わっと、伸びる手。

     「ありがとう、お姉ちゃん」
     「…」
     「亮もおいしいってさ」
  
     口でくわえてるから。今度は、言葉にしなくても、まだ。違和感はない。みんな喜ぶ顔。確かめて。

     「あ、…痛、」
     「悪い、大丈夫か?」

     よそ見をしながら、手を伸ばせば。忍の指先が、甲をかすめる。…ちくん、と。刺すような痛み。
     思わず、声を上げてから。しまった…と、思うけど。それ以上に、ふと。気付いてしまうのは。

     「忍お兄ちゃん、爪伸びてる」
     「あー、…しばらく切ってねぇからな」
     「…」
     「それもそうだよねぇ、自分じゃ無理だよね」

     …ジーンズの、ひざの上に。無造作に置かれた、大きな手。手首には、カーキの。ミリタリー用時計。
     怪我をした、左手は。当然動かせないから。右手の爪は、切ることは出来ない。珍しく伸びている。
     とはいえ、右手は動くはずだけど。三角巾に、覆われていて。目立たない。便乗して伸びたまま。

     もちろん、あたしだけじゃない。…全員に、右手を凝視されて。忍。若干照れた表情。そっと隠す。

     「大丈夫か?」

     熱を持った、手の甲。別に、怪我したわけじゃない。ほんの少し、当たっただけ。びっくりしただけ。
     何となく、心配そうな瞳。じっと見つめられたら…逆に、困ってしまう。うつむいて、やり過ごす。

     そして、そんな…妙な空気感を。混ぜ返すのは、だいたい雅人。ストローを離して、ひとことは。

     「でもさぁ…将軍がまた怒るんじゃない?…亮の髪も狙われてるし」
     「亮お兄さん…リボンで結ぶ?ローラの貸してあげるけど…」
     「…」

     ぶんぶんと。無言で、今度は。焦ったような、リアクション。亮。さすがにローラは、蹴れないから。

     でも。確かに…将軍は、意外と。身だしなみとか、清潔感には。うるさい。旧式、といっていい。
     亮の髪は、トレードマーク…暑い時は、結んでる…だから、別としても。前髪とか、服の乱れとか。
     制服の、着こなしは。いっても全員、改まらないから。あきらめて。代わりに、そっちへ行った。
  
     …病院で、看護師さんが。なぜか、ひっきりなしに、忍の病室を。訪れていた…と、うわさで聞く。
     ただ…誰にも、頼まなかったらしい。その結果、今現在。爪は、はたから見ても。立派に伸びて。

     喉の渇き。ちゅう、と。…冷たい飲み物を、飲もうとして。頭の上から、衝撃的な言葉。降って来る。

     「悪いけど、切ってくれねぇか?」
     「…、…えーと、あたし?…」
     「以外に誰がいるんだよ、全員信用なんねーよ、お前くらいだろ」
     「そーそー…あ、ちょっと待ってて」

     …多弁なのは、照れている証拠。忍。まだ…あんなことをしても…“信用”してくれている、らしい。

     顔を上げて。おろおろと、辺りを見回す。と。全員が、半笑いで…亮は無表情のまま…目を反らす。
     雅人に至っては、そのまま…すたすた、と。自室へ、戻ってしまう。まさか…と、思いながら、待つ。
     しばらくして。意気揚々と、戻って来る手には。いやというほど、見慣れた金属片。いわゆる爪切り。
  
     どうしてそこで、立ち上がって。逃げなかったのか。というか、鮮やかな手回し。その暇も、ない。

     「はいどうぞ」
     「…」

     渡されれば、反射的に。受け取ってしまう。それじゃ“やります”と。いっているような、もの。
     とりあえずは、何とかして。回避するべきだろう。テーブルの上、拒否するように。爪切りを置く。

     「あたし、あんまり器用じゃないよ?」

     浮かせかけた腰。それより早く、亮が立ち上がって。出口へ向かいかけて。ふ、と振り返る。

     「俺は鍛錬に行く、…ローラも勉強の時間だろう?」
     「…え、」
     「まだ少し早、…うん、もうそろそろ行こうかな、雅人も行こうよ」
     「嘘っ、これからが面白…、…ちょっと〜!!」
     「…」

     亮が、眉をしかめる。いつものように、襟首をつまんで。じたばたと、抵抗の脚。でも緩まない力。
     そのまま、ぶら下げる体勢で。去って行く。その後を、ちょこちょこと。ローラが、ついて行く。
     置いて行かないで…と、ただ思う。けど、それもほんとは、自業自得。…忍に、怪我をさせたのは。

     しん…、と。静まり返る。休憩室は、さっきまで。にぎやかだった。その分だけ、落差が激しい。

     飲みっぱなしの、グラスの氷。からん、と。崩れる音が、響いて。うつむいていた、顔を。上げる。
     伸びた前髪と、どこか…優しい瞳。光に空ける茶色。組みかえる脚は、長い。低い声。動く喉の隆起。

     「…嫌なら、無理強いはしねぇから」
     「…」

     …返事の代わりに。テーブルの上の、爪切りに。手を伸ばす。小さいけど、よく切れそう。高級品。

     くるん、と。ひっくり返して。感触を、確かめる。はさんでぱちん、と。自分なら、簡単なことなのに。
     一旦、置いて…持ったまま、動いたら危ない…意を決して、隣の席へ。移動する。腰を下ろして。

     「…手、出して」
     「あぁ…、…」

     いつも、並ぶ時は、左側。とりあえず、向き直って。差し出される。右手は、まだ。自由に動く側。

     当たり前に、他人の爪なんか。切ったことはない。しばらく悩んでから。そっと、左手で受ける。
     もちろん、あたしの手より。格段に大きい。骨っぽくて、無骨で。それでいて…どこか。繊細な指。
     すっと長く。爪は、整えていないのに。きれいな形。手の甲の、血管。日に焼けた、褐色の肌。

     一瞬、場違いに見惚れて…本来の目的を、思い出して。向き直る。テーブルの上、爪切りを手に。

     「…、…」

     緊張しながら。刃先を、入れて行く。一番最初は、親指の爪。硬い感触。…ぷちんと。押し切って。
     ティッシュとか、敷くべきだったのかも、知れない。でもそれすら、思い出さないほどの、緊張。

     どきどき、と。無音の休憩室。…あたしの鼓動だけが、響いてる気がして。息さえ殺す。…けれど。

     「…あ、…」
     「どうした?」
     「何でも、…何でもないよ」
     「やべ、手が汗ばんで来た…ちょっと待て」

     掌に、にじんだ汗だけは。ごまかしようがない。まさか、戦闘服の布地で。拭くわけにも、いかない。

     かたくなに、答えないあたしを。かばうように一瞬、手が離れる。その隙に、何となく。蒸発する。
     手も足も、指は5本。まだ、半分くらい残ってる。…泣きたくなる。それ以上に、どこか罪悪感。
     まさか。この期に及んで…緊張と同時に、どきどきして。触れることに、戸惑ってる…だ、なんて。

     かたかたと、震えそうな指先。まるで心臓が、この位置まで。下がって来たような。激しい脈動。

     「…」
  
     指先を、落ち着かせたら。今度は、息が荒くなる。いうことを聞かない、あたしの身体。持て余す。

     優しい茶色の瞳。ただ…爪を切ってる、途中で。放り出されたら、誰でも困る。再び、左手をかざす。
     その上に、やわらかく。忍の右手。残ってるのは、薬指と小指。親指に較べたら、若干薄い爪先。

     全部の爪を、切り終えて。小さく息を吐く。そのままじゃ、断面が荒いから。また、怪我してしまう。

     「終わったか?」
     「ちょっと待ってて、…」

     裏側に、ついているやすり。滑らかに、整える。全部の指を、きれいにするには。時間がかかる。

     その間も、ずっと。手は触れ合ったまま。うつむいて。恥ずかしくない、と。自分に、いい聞かせる。
     ごりごりと、爪がぶ厚いからか。やっぱり手間取る。…だから、器用じゃないと。自己申告した、のに。
     呼吸さえ、止めて。一心不乱に…意識しないと、そうならないとか、不純だと思う…作業を続ける。

     マニキュアとか、何も。塗っていないはず。なのに、女子垂涎の艶と。きれいな、長い形の爪先。
     手の温もりが、肌に移る。もう、汗とかそういう、レベルじゃない。喉は、からからに渇ききって。
  
     こういう時、妙に凝り性…他人によくいわれること…だと。損だと知る。満足しないと、次へ進めない。

     「…ふぅ…」

     詰めていた息を、ふと吐いて。顔を上げる。…忍もまた、あたしの作業を。注視していたらしい。

     「もう少しか?」
     「うん、…、」

     きざした影。窓越しの、午後の陽射し。無音の光源。ゆっくり、西に傾いて。それでも、強い輝き。
     近い…近過ぎるといってもいい…あたしたちの、距離。間近に迫る顔。昔より、少し痩せたと、思う。

     逆光の翳り。長いまつげが、揺らめく。目を伏せていたら、頬に着地しそうな勢いで。通った鼻筋。
     いつもは、鋭いまなざし。今は、優しい光に透ける。淡い茶色。くっつきそうな、額と。艶めく黒髪。
     手を伸ばして。すくめても、広い肩幅。いくつか外した、ボタンから。ちらり、と。鎖骨。首筋。

     「…」

     指先と、胸の奥の鼓動。また、どきりとはね上がる。治まっていた、手の汗。一気に肌から吹き出す。

     この間の、洞窟で。…一番最初は、士官学校への、敵襲で。いつも接近は、不測事態。事故レベル。
     じっと、視線を止めることとか。それこそ、出来るわけがない。でも…今は反らすわけに、いかない。

     ここで目を、背けたら。見惚れていることが、ばれてしまう。さりげなく、視線を外さなくては…。
  
     「喉渇いたよな」
     「う、…ううん、」
  
     その言葉を契機に。ばっ、と。目線が合う。これはこれで、恥ずかしいけど。盗み見るよりは、マシ。
     でもまだ、手と手を握り合ったまま。事情を知らない、誰かが通ったら。誤解されそうな、光景。
     そのことに、気がついて。また募る焦り。実際、喉はからからで。忍と同じくらい、声はかすれて。

     でも、それを。認めるのも…何となく、恥ずかしい。緊張していると、ばれてしまうのが。怖い。

     「悪いけど、何か取ってくれよ」
     「…、えっと…」
     「その白いのでいい」

     忍が飲んでいた、麦茶も。今はもういない、みんなが。飲んでいた乳酸飲料も。既に、ほとんど空。
     残っているのは…あたしが飲んでいた、ものだけ。ぽつんと、取り残されて。若干、薄まった色合い。

     せめて、他のはないのか、と。見回すけど。色違いの、ストローは。あたしの分しか、残ってない。

     とりあえず、手を伸ばして。引き寄せる。忍からももう、届くくらいの位置。から、と。氷が落ちる。
     でも。一向に、取る気配はない。というより…ふと気付く。そういえば、左手は。動かせない…と。
     そして、唯一自由な右手は。今あたしが、“作業”している。…しん、と。また静まり返る、空気。

     それはつまり。あたしが、口元に運ぶしかない、ということ。いやでもわかる。わかってしまうけど。

     「…取ってくんねーの?…」
     「…」

     ダメ押しのような、忍の声。近すぎる距離。どこか不敵な…面白がるような、笑み。完全な確信犯。
     爪切りを置いて。左手で、持ち上げるグラス。汗をかいて、滑る感触。慎重に、口元へ。持って行く。

     ちゅう、と。肺活量は、段違いなのか。ストローが、白く染まって。一気に減る中身。舌なめずり。

     「うまいな」
     「…さっき要らないっていったじゃない…、…ぁ…!!…」
     「“今は”つったろ?…濃いと甘すぎるんだよ、な」

     忍の声なんか…っていうのは何だけど…耳に入らない。あたしが、飲んだストロー。口をつけて。
     それはつまり。つまり。…いわゆる、巷では“間接”とかいわれる、ような…気がしないでもない。

     忍がその事実に、気付いてるのか、いないのか。わからないけど。かぁあ、と。耳まで赤くなる。

     「つか、喉渇いてんだろ?お前も飲めよ」
     「え、え、いや!絶対いや!!」
     「なら…もっとくれよ」

     にやり、と。どこか…意地悪な笑み。くちびるの艶。弧を描く。…間接でも、触れてしまった。
     そもそも、手を握ってるとか。考え出したら、もう…もう。恥ずかしいとか、いうレベルじゃない。
     もう、こうなったら。さっさと終わらせるしか、あたしには道はない。グラスを、押し付ける。

     ちゅる、と。飲み干す仕草。喉はほんとうに、渇いているらしい。飲み下す、隆起の動き。艶かしい。
     かすかに、首筋の汗。鎖骨の方へ流れる。色っぽく、見とれかけたのも、つかのま。衝撃の依頼は。

     「終わったら、左手も頼むな?」
     「え、…怪我してるんでしょ?!」
     「別に痛くないし、…伸びてるからなぁ?」
     「…鬼…」

     真昼なのに。目の前が、暗くなる。でもそれは“自業自得”…ローラが見てたら、生きた教材だろう。

     それでも、指は5本だから。そして手は、ふたつだから。いつかは…がんばってれば、終わるから。
     気を取り直す。というかむしろ、早く終わらせて。部屋に、逃げ帰りたい。…ひとりになりたい。
     でもどこか…心の、片隅で。もっと…一緒にいたいとか。思ってしまう。雑念は、爪切りに込めて。
 
     青い空。白い雲。開店休業の、基地の中で。ため息は、どこか甘酸っぱく。空中へ消えて行った。

   
     《終》
 


NAKAさまよりバースデープレゼントを頂いてしまいましたので、
遅ればせながら皆さまにもおすそわけさせていただきますねv(NAKAさま、遅くなってごめんなさい;)

ぶぅがDAN創作を始めるきっかけとなったハートブレイクの後日談、ということで…
さすがNAKAさま、ツボを心得ていらっしゃるw
和気あいあいとした4人(+1人と1匹)の雰囲気、大好きです。
苦しい戦いの毎日だからこそ、そうでない時間はかけがえのないもの…ですよね。
そしてそんな中、青春ストライクな二人の関係がまたv
空気を読む3人(ローラまで!)、確信犯?な忍くんに、戸惑いまくりの沙羅ちゃんがかわいいですv
まさに例の乳酸飲料(茶色のビンに包み紙は外せません)のように甘酸っぱい夏の恋、ですね!

NAKAさま、ステキなお話をありがとうございました。
遠い(そして薄い)青春時代を思い出しつつ、今年も強く生きていけそうです(笑)

2012.6.28