エレベーターの階数表示。
ゆっくりと上がっていくにつれて、抑えきれず、鼓動は高鳴る。
数々の戦場、くぐりぬけても。それとはまた別の緊張感。

手にした包みには、赤やピンクの花たち。
きっと笑われると思うけど。

浮遊感、消えると同時に、開いた扉。
意を決して、足を踏み出した。




Re:sanctuary




俺の誕生日。沙羅に、欲しいものを、聞かれて。

『お前』

なんて。
冗談みたいな、答え。

いや、気持ちは本気だったけど。

拒まれたら、冗談で済まそうと思っての、そんな答え。
なのに。

『…いいよ』

少しの沈黙の後。その答えに一番驚いたのは俺。


ずっと触れたかった。その肌、その心。
柔らかく、絡まって。吸い寄せられるままに、重なって。

まるで、夢みたいな…夢じゃ、困るんだけど。
そんな、ひととき。


あれから…だからといって。劇的に変化、したりはしない。
筋金入りの、ぎこちない関係。

むしろ、照れくさくて。
余計によそよそしくなった気さえ。

もうすっかり大人。
そのくせ、そういう部分はガキレベル、なんて。我ながら情けないけど。

でも、確実に。
今までの関係では、満足できなくなっている自分がいる。
あの日覚えた幸福の味。再び求めてしまう自分がいる。

『お前は、誕生日に何がほしい?』

俺からの質問に。

『…なんだと思う?当てて…みて』

上目遣い。心なしか、頬を赤らめて、聞き返した沙羅も。
同じ気持ちだって、思いたくて。



呼び鈴の音に続いて、開く玄関のドア。
覗いた蒼い瞳の、ほのかな緊張の色。伝染する。

「…いらっしゃい、」
「お、おぅ…」

上擦る声、ごまかすように、咳払いを1つ。
後ろ手の花束、目の前に。

柄じゃないのは、重々承知だけど。
手ぶらというのも何だし、それに。

「似合わない、って言いたそうな顔だな」
「…まぁ、ね。確かに」
「…ちょっとは否定しろよ」

予想通り。空気を和ませる役割。果たしてくれる。

「まあでも、メインはこれじゃねぇし、な」
「え…、っ…」

胸元に、押し付けた花束越し。奪う、唇。
まるでいつかの再現のよう。

もっと、沙羅が喜びそうな演出とか、考えられればよかったんだろうけど。
結局、そんなの思いつくわけもなく。

俺にできるのはただ、むき出しの気持ちをぶつけることだけ。

俺は、お前のものだと。証明することだけ。

「当たり、か…?」

息継ぎすら惜しくて、唇の先、触れたままで尋ねる。

沙羅が、誕生日に、欲しかったもの。
これで独りよがりだったら、情けなすぎるけど。

「…」

こくん、と小さな頷き。確かめて。
密かに安堵する。

「好きなだけやるよ。プレゼントだからな」
「もぅ…ばか…」 

真っ赤に染まった頬。愛おしくて。たまらなくて。
ぎゅ、と抱きしめる。

二人の間、ばさ、と音を立てて落下した花束は。
どこか恨めしそうに、俺たちを見ていた。




2012.7.7


2012年沙羅ちゃんお誕生日SSでしたー!

『プレゼントはわたし』忍くんverです(なんかイヤw)
そして、先月こう(だから、どう?)なってもなお、二人はこんな感じなのでした(笑)
ヘタレすぎる…(私がです)

お誕生日SSも、これで通算5作目。もうそろそろ(いやかなり前からかも)ネタ切れ感いっぱいになってきましたので、来年からは別の形でお祝いすることになるかもしれません。奇跡のネタ降臨があれば別ですがw

その前に来年もちゃんと生き残っていられるようにがんばりまーす(わぁ切実ー)