『乗員に告ぐ。月の女王が微笑んだ。繰り返す。月の女王が微笑んだ―――――』 ついに来た。時が。 宇宙へ。敵の、前線基地へ。 「いよいよだな、沙羅」 「うん、忍」 お互いの存在を、確かめるように。 呼び合った名前。声は。月明かりの空に散った。 moon phase〜ツキハボクラニミカタスル〜 |
Phase.1 「戦いが終わった後のことを、考えることにしたの」 そう言った沙羅の。心の奥を。 どうして察することができなかったのだろう。 戦いの終わり。平和な世界。俺たちの、未来は。 沙羅にとっては、もしかしたらそれ以上に。想い人との、永遠の決別。 壮絶な別れと、再会を。味わったあいつは。 その「後」の未来に。踏み出すことを考えていた。 それなのに。 「けど、どうするんだ、沙羅。その時…もうヤツはいねぇぜ」 どうして、蒸し返すようにその存在を口にしてしまったのだろう。 そんな言葉で、沙羅を試したのだろう。 乗り越える自信。勝つ自信。獣の闘争心。失ったことはない。 でも、鎧を剥がせば。獣も形無しの。 守りたい女に、気持ちを伝えることもできない。 「そうよね…でも、忍…そのとき、あなたはいるんでしょ?」 不意に、重なった手。 偶然とわかっても、鼓動は勝手に飛び跳ねて。 「もしこの戦いに生き延びたら…ぱーっとやりましょ。みんなで」 無邪気な提案に。 当然とわかっても、落胆した。 自分の気持ちも伝えられないで、何かを期待するなんて。 戦いが終わった後のこと。 生きるか死ぬかもわからない、戦に臨む前に。 考える価値があるとすれば。 守りたいもののため。 守りたいものを、守り抜いて。そのときには。 今の俺には足りない勇気が、満ちていることを信じて。 |
Phase.2 いつからか、こみあげた想いを。 それでも真っ直ぐ信じることはできなかった。 あの男への。 愛はすでに、憎しみに変わったのか。 はたまた、まだそこにある、愛ゆえの憎しみなのか。 その、どちらだとしても。 確実に大きくなる、空虚感。 新しく芽生えた気持ちは。 もしかすると、ただ、この穴を埋めるために。 そう思うと、怖くて。前には、進めずに。 「けど、どうするんだ、沙羅。その時…もうヤツはいねぇぜ」 心を見透かすような、言葉。 わかってる。わかってるから、確かめたくなる。 この気持ちは。心の隙間を、埋めるためのもの? あいつの代わり?それとも。 偶然を装って触れた手。 驚いて見上げる鳶色の瞳に。 「…そのとき、あなたはいるんでしょ?」 絡めた視線。ずるいと思う。 忍の気持ちに気がつかないほど、初心でもないくせに。 だけど。 ごめんね。 心の中で、そう呟いた。 やっぱり、今はまだ。答えは出ないまま。 「もしこの戦いに生き延びたら…ぱーっとやりましょ。みんなで」 ごめんね。忍。 勝手な女だけど。 過去に決着しないかぎり、きっと未来は選べない。 でも。だからこそ。今度こそ。 決着をつけるって決めた。 もしかしたら、 すぐそこにあるかもしれない明日を、見てみたいから。 |