Kill my days




うっすらと開けた目に映る天井は、
月明かりに照らされて、ぼんやりと霞む。

まだ、甘く痺れる身体は、
一体、喰い尽くしたのか、喰い尽くされたのか。


視線を動かすと、赤い髪。
透けるように白い肩は、規則正しい寝息を刻む。

必ず背中を向けるくせは、最初のときから変わってはいない。

本人曰く、「なんとなく気まずい…」だそうだが、
俺としては、寝顔が拝めないのは、少し、不満だ。


体を起こして、顔にかかる髪を指でそっと掬ってやると、
露になる、長いまつげ。

穏やかな表情の口元、そっと口付けてから、
できるだけ静かにベッドを抜け出した。



脱ぎ散らかした衣服を適当に羽織って、
窓際の机、無造作に置かれたタバコを一本取り出し、火をつける。

煙を逃がすためにうすく開けた窓から、
吐き出した息が、漆黒の空に溶けていく。

椅子に腰掛け、その行く先を目で追いながら、脳裏に蘇るのは。


ひたすらに俺だけを映してた蒼い瞳。
強く絡めた指と、指。

噛み付くように奪った口唇の感触も、思い出して。


どくん、と、跳ね上がる鼓動。

ごまかすように、また長く煙を吐いた。



自分が、こんなに誰かに夢中になるなんて、思いもしなかった。

意志の強い瞳。
そのくせ脆い一面。
凛と響く声。
トレードマークの長い髪。

そのすべてが、俺を捕えて放さないなんて。


いつの間にか、心奪われてしまった、なんて。



「ん…」

不意に耳に届く、か細い声と、
シーツを引き寄せる、衣擦れの音。

どうやら窓から入る風が、少し肌寒いらしい。
振り向くと、猫のように体を丸める沙羅の姿が目に入った。

「…ぅん…」

身じろぎに押し出された吐息が、甘く響いて、
誘われるように、タバコの火を消して立ち上がる。


ぎし。

ベッドがきしむ音に、

「しの…ぶ…?」

ふわりと開く瞳。
俺の名前を呼ぶ、夢から覚めたばかりの、とろけた声。

また、理性は溶かされて、奪われる。

堪らず覆いかぶさるような体勢から、口付けを落とした。

「…んっ…寒いん、だけど…」
「悪ぃな…あっためてやるよ」
「そうじゃなくって…窓、閉めっ…ぅ…ん…」

繰り返すキスは、徐々に深く、意味を持っていく。

「っ…もぅ…この、ケダモノ…」

その意味に気づいた沙羅からは、非難めいた声が上がったけど、

「大当たり」

余裕たっぷりの表情を作ってみせると、

観念したのか、あきれ果てたのか、
しなやかな腕は、ゆるゆると首元に絡まって。


そうしてまた。
深く、口唇が重なった。




このまま喰い尽くして、喰い尽くされて。

長い長い、夜が更けて。




きっと俺は、
もっとどうしようもなく、お前の虜になっていくんだろう。




2009.5.10

タイトルは、最近ぶぅの中で大ヒット中、DOPING PANDAの某曲から。
『She kills my days』=『彼女は俺を虜にする』って訳してありました。
意訳だろうと思いますが、なんだかオシャレじゃないですか??v

今回、当サイト初のちょっぴり大人テイスト…のつもりでしたが、
う〜ん…撃沈した感が否めない…(汗)