Free Bird




格納庫に響く轟音。

出撃の準備を整える輸送機の中、のクーガーの操縦席。
耳に入る、長官の低く響く声が、作戦内容を伝える。

『…以上だ』

つらつらと並べられる小難しい単語も、位置や座標を表す記号の羅列も、
頭に叩き込むことにすっかり慣れてしまった。

「了解」
すぐに返した返事に、重なるように。

『ちょろいもんだぜ!』
『OK、任しといてよ』
『了解した』

ほとんど遅れることなく聞こえた、三者三様の言葉。

『いいか、夜明けとともに作戦を開始する。各自、それまで到達点にて待機すること。幸運を祈る』

そんな言葉に見送られて、いつものように、
最初にイーグルが、その後に続いて輸送機が、基地を飛び立つ。

『ったく、深夜の出撃たぁ長官も人使いが荒いぜ…』

小さな舌打ちとともに耳に入った独り言は、先頭を行くイーグルから。
多分、回線を切り忘れてる。

『聞こえてるぞ藤原っ!!』
案の定の、怒鳴り声。

『やべっ!』
そんなやり取りと、回線を閉じるぷつりという音を最後に、
機内には静寂が訪れた。



夜の空が、月明かりで思ったよりも明るいってこと。
気づいてからは、移動時間を、外を眺めて過ごすことが多くなった。

窓から見えるのは、輸送機の翼。

それから。
その隣を悠然と飛ぶ、イーグルの姿。

小型の戦闘機は、風に煽られて、右へ左へ体を翻す。
でもそれすらも、まるで楽しんでいるかのように、
時折風に任せてくるりと機体を回転させてみたり。


「いつも思うんだけどさ…」

いつの間にか、同じように窓をのぞきこんでいた雅人が呟いた。

「忍、あれでよく目、回らないよね〜」
見てるほうが酔ってくる、とでも言わんばかりに肩をすくめて。

「イーグルはあいつにとって、手足みたいなもんだ。大方、走り回ってるのと同じ感覚なんだろうさ」
『ご名答!』

亮の言葉に、回線から乱入してきた声が答える。

『戦いの前に、準備運動しとかねぇと、な』
そう言うと、また翻す翼。


悠々と飛ぶ姿は、
何ものにも縛られない、自由な鳥のようで。

知らず知らずに、追いかけている視線。

抱えた傷や、不安や恐怖は、あいつだって同じか、
もしかしたら、それ以上。

地球を守るなんて、大きすぎる使命を背負う1人。
むしろ、その要。

それでも、のしかかる重圧や責任も、
平気な顔して受け止めてみせる。


「準備運動で消耗しないように、せいぜい気をつけるんだね」

皮肉をのせた言葉は、そんな姿への憧れ。羨望。


過去に、現在(いま)に、がんじがらめにされた私は、
到底、鳥にはなれないから。


『わかってらぁ!』
すかさずよこす返答と、
くるり。また、宙返り。見せ付けるように、何度も何度も。


憧憬のため息は、吸い込む窓を白く曇らせた。




再び乗り込んだ操縦席。
パチン、パチンとスイッチをはじいて、眠れる獣に息を吹き込む。

『準備はいいかい?』
作戦地点への到達を知らせるクリスの声に、
「いつでもいいよ」
いつもの返事をして。
『それじゃ、降下開始!』
ガクン、という衝撃の後、輸送機のハッチが開く。


数百メートルの自由落下は、もう慣れたけど、結構な速度。
逆噴射をかけて機体が安定しても、やっぱり落ちてる感覚。気持ちのいいものではない。

『日が昇り始めたな…』
と、突然飛び込んできたのは、忍の声。

夜は少しずつ明け始め、地平線が白く光り始めている。
競り上がってくる光の帯が、空を照らして、

『空から見る夜明けは、格別だぜ』
忍の言うように、絶景の眺め。

「そうね…」
相槌をうってから、上空のイーグルを仰ぐ。


まさに、鳥の姿。薄明かりの空に舞って。

「こっちはあんたと違って、優雅に空のお散歩ってわけにはいかないけどね」
また、思わずたたいた憎まれ口。
でも、それをどう受け取ったのか、返ってきたのは意外な返事。


『じゃ、今度乗せてやるよ』


「え…」
『えーっホント??やった!』
私が答えに窮してる間に、雅人の声が割り込んでくる。
『雅人!』
それに続いて、亮が雅人を諌める声。
『だってさぁ…ごめん』
『忍、そういうのは単独回線でやるんだな』
言って、二人分の回線が途切れると。


『…あいつら…聞き耳立てやがって…』

憎らしげに言うけど、はっきり言って、亮の意見が正論だとは思う。

「あんたも学習能力ないわね。さっきだってそれで長官に怒鳴られてたくせに」
『…うるせぇよ』

ぼそりと呟く。ふてくされた表情が目に浮かんで、思わずふきだした。

『笑うなよ!!』
「だって…」
『…で、返事は?』
「え?」
『さっきの。もう、誰も聞いてねぇんだろ?』

改めて、投げかけられる。さっきの続き。


「…まぁ…悪くないかもね」


曖昧に答えたつもりだったのに。

『じゃ、決まりってことで』

「ちょっと!!」 
『おっと、そろそろ降りねぇとな。お先!』

都合よく解釈されて。


遥か上空から、急降下。

あっという間にクーガーを横切って、吸い込まれるように地上へ降りていく。

「あきれた…」


ため息混じりに見送る視線の先。


本格的に昇り始めた太陽をまとって、輝く機体は眩しくて。


今はまだ無理でも。
奔放に生きる自由な翼に。




私も少しずつ、近づきたいと思った。



2009.1.25


2009年最初の更新!
だというのに、なんだかよーわからん話になっちゃいました;;

初めて獣戦機(&輸送機)が登場しておりますが、勝手な解釈満載です(笑)
輸送機の中とか、どうなってるんでしょ??
操縦席以外にもいくつか席があったような気がしたんで、移動中はみんなそこにいるのかな、と。
そもそも、回線って個人と全員と使い分けられるものなのか??
その辺ナゾなままです(ええっ!?)
個人的には使い分けできてほしいですけどね。妄想の都合上(笑)