だいたいが。
柄じゃないって、自分でもわかってる。

それでもやっぱり、あなたに伝えたいから。




チョコレイト☆モード




独特の甘い香りは、
刻んで火にかけるとますます強まって、
くらくらするぐらい、部屋中に拡がる。

基本的には、
固まってるものを溶かして、また固める。

言ってしまえばそれだけの作業だけど、

やわらかくとろけた中に、洋酒とか、生クリームとか、
…密かにいろんな気持ちとか。

隠し味みたいにかき混ぜて、冷蔵庫に押し込んだ。



つい先週。
たまたま忍と行ったデパートで、目に留まったのは、

赤やピンクでかわいらしく飾られた売り場。
そこに、性別的にものすごく偏った人だかり。

「バレンタインねぇ…お前も誰かにやんのか?」
不意に尋ねられて、

「…義理チョコ配ったりするの、あんまり趣味じゃないのよね」

その時は、そんなふうに気のない返事をした。


2月14日。
普段むさ苦しいだけの基地が、多少なりとも華やぐ数少ない日。

色とりどりの包みや、甘い匂いは、
お世話になってる教官への感謝の気持ちだとか、友達同士の交換だとか、
…本気の告白だとか、いろいろだけど。

もともと、バレンタインなんてあんまり興味がなかった。

いろいろ謳われて、すっかり一大イベントになってはいるけど、
半分か、それ以上は、お菓子メーカーの陰謀だと思う。


だから、忍に言ったことも、あながち嘘ではない。


でも。

甘い甘いチョコレートが、
普段言えない言葉を、代わりに伝えてくれるのなら。


そんな陰謀に、呑まれてみるのも悪くないかもしれない。


単純なのかもしれないけど、
そう思えるようになったのは、

きっと、伝えたい言葉を見つけたから。


伝えたい相手に出会えたから。


たまたま早番だった今日。
机に残した伝言は、

『ちょっと帰りに寄ってくれる?』

あいつは、気づいただろうか。



ドアホンが鳴り響く。

机の上にスタンバイしていた包みを引っつかんで、
急いで玄関のドアを開けると、

「よぉ。どうしたんだ?急に」

どうやら伝言は、伝わったらしい。

忍は、仕事帰りの、荷物を持ったままのラフな服装。

きょとんと立つその手に、

「はい、これ」
持っていた包みを押し付けた。

「な…」
あまりに突然の出来事に、目をぱちぱちさせる忍に、

「バレンタイン…だから」

なんとか伝えたけど。
…やっぱり、あんまり柄じゃない。

だんだんと小さくなってしまう語尾は、

「サンキュー」

短い言葉と、笑顔に掬い上げられた。

「義理チョコは配らねぇ主義だったよな?」
「…」

拾ってくれなくてもいいようなあの日の言葉まで、拾われて。
うなずくことはできなかったけど、間違ってはないから。

否定は、しないでおく。


と、突然伸びてきた手が、私の頬を撫でて、

「こっちからもチョコの匂いする」

近づいてくる顔。今度は私が驚く番で。

調子に乗るんじゃない。額を、小突いてやろうかとも思ったけど。


バレンタインだから。
そんな理由で、



私はおとなしく、目を閉じた。




2009.2.14


滑り込みセーフっ!!な、2009年バレンタインSSでした;;
うわぁ…これは読み返せません(そんなん出してゴメンナサイ…)
そして沙羅ちゃんが作ってるのは…多分生チョコです。
(ぶぅ唯一の成功レシピw←ブログ参照)