Birthday Call〜トオクテチカイ〜




7月6日。PM11:55。

ふいに時計を見たら、およそ一月前のあの日と同じ時刻。

些細なことで、強がって。
でも、声が聞きたくて。おめでとうって、言いたくて。

取ってつけたように、鳴らした電話。
思い出しただけで恥ずかしくて、ぶるぶると振り払う。


視線を逃した先には、一本のビン。見慣れないラベル。

遠い異国の地から送られてきた。
地元では好んで飲まれるワイン、らしい。

遠征中は、基本的に。外部との接触は制限される。
電話だって、自由にはできないほどなのに。これを送るのも、大変だっただろう。


『少し早いけど、誕生日おめでとう』

そんな走り書きのメモさえ、無事を知らせる安心材料。
大切に、折りたたんで。


誕生日のプレゼントに、ということだったから。
日付をこえたら、開けるつもり。

1人で飲むことなんて、めったにない。
でも。今日だけは。

本当なら、会いたい。声が聞きたい。でも、叶わないのなら。
少しでもその存在を、近くに感じたくて。


時計の針が12時ちょうどを指すのを見届けてから、グラスを取りに、立ち上がる。

そう。まさにこの瞬間に。意を決して電話をかけた。

また、一月前の記憶が頭をよぎって。
いつの間にか携帯に目をやっている自分に気づいて、苦笑する。と。

目線の先、突然光り始める画面。
驚きのあまり、一瞬思考が停止する。

あまりにもできすぎたタイミングだったのと。
そこに示された名前が。望んでは、いたけど。まさか、ありえない…

「は、い…」

混乱する頭のまま、しどろもどろ、応答する。

『びっくりしたか?』

電話の向こう、いたずらっぽく笑う声。
それは、紛れもなく。

「しの、ぶ…」

久しぶりの声に。安堵する。けど。
それと同時、沸いてくるいろいろな疑問。

「っ、電話、大丈夫なの?ていうか、そっち今お昼でしょ?任務中じゃ…」
『あ?あぁ、まぁ気にすんなって』

そう言われても無理がありすぎる、けど。
飄々とした答えに、丸め込まれる。

『それよりさ、飲んだか?ワイン』
「えっ…?まだ、だけど…」

質問の意図がわからず、ただあたふたする私に、忍は続ける。

『ならよかった。これからメインが届くから、ちょっと待ってろよ』

ますますわけがわからなくなる。

メインって?
届くって、こんな夜中に?

聞き返す間もなく、鳴り響く玄関のベル。
恐る恐る、ドアを開けると。

「…!」
『「よっ」』

右耳の、電話越しの声と。
同じ声。左耳に。

そして、目の前には。

会いたくてたまらなかった。でも、会えないはずだった、その人。

「っ…どうし、て…」

に、と弧を描く唇。

「そんなわけで、グラスは2人分な」

多分、思った通り。だったんだろう。
私の反応に、満足げな表情。


悔しいけど。癪に障るけど。素直に喜びたくなんて、絶対にない、けど。

瞬間、何もかもどうでもよくなる。


ただ、心のままに。
感情が、求めるままに。


私はその胸に飛び込んだ。




2013.7.21


もはや申し開きのしようもないほど遅くなりましたが、沙羅ちゃんお誕生日SSでした〜。
書き出した時点で、多分間に合わないな…とは思ったのですが、例によって忍くんのと対なので、これだけ来年ってわけにもいかず…出しちゃいました;

あ、忍くん、任務をほっぽって来たわけではなくて、ちゃんとお休み申請して来てるので、ご安心(?)を〜。
その辺の沙羅ちゃんとの会話も書きたかったんですが、もうこれ以上遅れて月まで変わると笑えないので割愛(こらこら)

…と、そんな感じで相変わらずひどい有様ですが、読んでくださった皆さま、ありがとうございました。