その日は、空の恋人たちが、1年に1度の再会を果たす日。

だから、恒例のように。
毎年この日の締めくくりには、決まってここを訪れる。

頂上の展望台…には、行けない。
人目につきすぎるから。

お互い、いろんな方面に、顔は割れすぎてる。

だから代わりに、山の中腹、車を停めて。
人目を避けるようにその場所を目指す。


満天の天の川が望める空模様じゃないことは、
百も承知だったけど。




7月7日〜Milky Way〜




 雨…じゃなかったことには、感謝だけど、重い雲に覆われた空。いつもより、低く感じる。

「やっぱり…見えねぇな…」
見上げて、忍がぽつりとつぶやいた。

「そうね…」

当たり前といえば、当たり前。今日は1日、曇り空だったし。
7月といっても、まだまだ梅雨の空気を引きずっている。

「ま、夜景はきれいだろ?」
明るく切り出すその口調には、聞き覚えがあった。

「…それ、去年も聞いた」

確か去年も、この日は、曇り。そして残念そうに空を見上げた私に、彼が言った言葉。
視線を下ろすとそこに広がる美しい光たちに、目を奪われたから―――よく、覚えてる。

「…?…そんなん覚えてねぇよ」
言葉の主は、首を傾げてたけど。

今年も、そのまばゆい光は変わらずに、私の心に入り込んでくる。
まるで天上に輝くはずの、星の川の代わりのように。

そしてその上でひっそりと会う私たちは、空の2人にどこか、似ているのかもしれない。

「…沙羅…。誕生日、おめでとう…」
と、突然の言葉とともに、手渡される小箱。
視線で促され、リボンを解くと、そこにちょこんと収まっているのは、赤い宝石に彩られた…

「これって…」
「見りゃあわかんだろ。首輪に見えるか?」
少し不機嫌な声と変な冗談は、照れ隠しだって、よく知ってるけど。

「つけてみろよ」
「えっ…」
言われて明らかに戸惑う。

誕生日に贈られた指輪は初めてじゃない。
でも、初めてじゃないからこそ、考えてしまう。そこにこめられる意味を。

あの時は、無邪気に差し出した薬指に光った指輪を、
約束の証だと信じていたけど――――

「お前なぁ…今さら何考えてんのか知らねぇけど」
もたもたしている私に痺れを切らしたのか、あきれたような声。
でもどこか、私の戸惑いの理由なんて、見透かされているような。

少し強引に持っていかれる手。
すっと指輪をはめるしぐさは、あまりにも、らしくなくて。

「んだよ…」
思わずぽかんと見つめてしまった私に、また、照れ隠しの不機嫌顔。
そして、
「お、ぴったり。思った通り」
「え?」
指輪のサイズなんて、教えた覚えも聞かれた覚えもない。
なのに得意満面の言葉に、思わず疑問符を投げる。
すると返ってきた答えは。

「たくさん手、つないどいたからな」

にっと笑って言ってみせる忍に、

「…バカ」
私が何とか返せたのは、それだけ。


眼下にきらめく華やかな光の川。
その上で交わされた約束は、今度こそ果たされるだろうか。

薬指の、約束の証。
もう一度、もう一度だけ、信じてみよう。そんな気になって。

「…ありがとう」

つぶやいたのは、ありきたりな言葉だけど、
私にとっては、決意。


「来年は、晴れるといいな」
空を見上げる横顔に、相槌を打ちながら。

ホントは見られたくないのかもしれない。
私たちと、おんなじで。

思ったことは、口にはしなかったけど。


分厚い雲は、依然、空を閉ざす扉のよう。


でも、その扉の向こうで、天上の2人が、
幸せな再会を果たしていることを願って――――――――



2008.7.7


2008年、沙羅ちゃんお誕生日SS。
肝心の星が見えてませんが、いちお七夕SSでもあります(爆)
指輪のサイズって手をつないだらわかるのか?という突っ込みは…許してください(笑)