ローラに呼び出されて、何事かと思えば。

「クッキー作りを教えてほしいの」

本じゃ、難しくって。
そういってぺろりと舌を出すしぐさは愛らしく、

「いいわよ。私でよければ」

快く返事を返した。




Little teacher




キッチンに漂う、甘い香り。
いろいろな型に抜かれたクッキーは、オーブンの中。

「ローラ、手際がいいからびっくりしちゃった」
「そんなこと…沙羅さんが教えてくれたおかげです」

香りのいい紅茶をすすりながら、焼き上がりを待つ、ティータイム。
午後のひと時が、ゆっくりと過ぎていく。

「クッキーなんか手作りしちゃって、雅人にプレゼント?」

最近急に大人っぽくなったローラだから、からかい半分、こんな質問を投げかけてみる。
すると、

「違います。忍さんにです」

ローラの口から飛び出した名前に、思わず咳き込みそうになる。

「し、忍に?なんで??」
「もうすぐお誕生日ですよね。だからそれまでに、うまく焼けるようになりたくて」
「あ…」

部屋を見回して、カレンダーを探して。
今日の日付と、その日を見比べて。

確かに…もうすぐだ。

「沙羅さんは、なにかプレゼントするんですか?」

不意打ち。
また、咳き込みそうになりながら。

「べ、別に…」

無関心を気取って見せたけど。

「えー!だめですよ!」

なぜか、鋭く咎められる。

「だって沙羅さん、気になってるんでしょ?忍さんのこと」
「えぇっ!?」

…飲んでる最中とかじゃなくて、ホントによかった…
けど。
誰があんなヤツ、とか。
そんなわけないでしょ、とか。
返す言葉はいくらでも思いついたのに、どれもすぐに出てこなかった自分が憎い。

「ほら、やっぱり」

得意げに、納得されてしまったし。

「だったら、ちゃんとご飯に誘ってあげてくださいね。あと、プレゼントも。きっと、喜んでくれますよ」
「え…えーと…」

諭すような口調のローラに、私はしどろもどろで。
こういうことに関しては、彼女のほうが一枚も二枚も上手だ。

「気づかなかったふり、なんて、絶対ダメですからね!」
「わ…わかったわよ…」

大人びたといっても、まだまだあどけなさの残るローラに、
私はすっかり完敗して、うなずくしかなかった



「じゃあ、今日は教えてくださって、ありがとうございました」

玄関先、私を見送って、ぺこりと頭を下げる。
今となっては、どっちがなにを教えたんだか。

「ううん。がんばってね、ローラ」
「沙羅さんこそ」

言葉と一緒の意味ありげなウインク。
…やっぱり、侮れない。


玄関を出て。
ふうっと、息をつく。

「ご飯に、プレゼント…ねぇ…」

言われてその気になるなんて、われながら単純だとは思うけど、
まんざら、悪い気もしない。

でも。
私からの誘いなんて、忍はどう思うだろう。

喜んでくれるだろうか。
急に言ったら、変に思われるかな。

大体、今まで長い付き合いの中で、
2人で出かけたことなんて一度も無いのに。
何て言って誘えばいいんだろう…

「うーん…」


その日まで、あと数日。

頭を悩ませる日が、続きそうだ。




2009.6.8


お誕生日計画の発端は、こんな感じ…?と思って書いてみました。
ローラはきっとその辺おませさん(死)な気がします。
そして沙羅ちゃんは逆に奥手なイメージ。
考えてみたら、ローラをまともに登場させたのは初めてな、おまけSSでした(笑)